#3外山 倫裕さん
イギリス国立セント・アンドリュース大学
物理学部(2018年6月卒業予定)
University of St Andrews
MPhys in Physics
静岡県立浜松北高校出身
NIC東京校 第25期生
Michihiroさんの原動力は?
初心に戻る。
NIC修了後、一年間のファウンデーションコースを履修して、セント・アンドリューズ大学物理学部に入学しました。ファウンデーションコースで好成績を修めたため、飛び級して大学二年から入学することができました。現在、実験物理学を専攻しています。もう一年ここで勉強し、来夏MPhys (Master of Physics) in Physicの学位で卒業する予定です。
幼少期から数字が好きで、母によると、手を使わずに数えられたそうです。理系を志したのも、当初は数学を勉強したかったからです。物理学に興味を持ったきっかけは、2008年に3人の日本人物理学者が原子物理学の研究でノーベル賞を受賞したことです。以来、物理学、とりわけ原子物理学の分野に強い好奇心を抱いてきました。
物理学の魅力は、自然界のあらゆる現象を数式で表現できること。複雑に見える現象も、様々な法則や定理に従って観察、実証すると、論理的に解析できます。
現在興味ある分野は、量子力学や原子物理学。まだ未解明な部分が存在し、多くの可能性を秘めています。その勉強、開拓、研究に関われることは実におもしろいです。
ここの学生は、イギリス人をはじめ、全学生の約三割を占める外国人留学生と、バックグラウンドは様々。彼らの最大の魅力は、妙な偏見が無い、貪欲な知的好奇心を抱く、あらゆることに造詣が深いこと。彼らは様々な学生と、各々の専攻分野以外に、科学、政治、経済、世界情勢、文化、芸術、音楽等、多種多様な話題を持ち出します。最近では、食事の席で、昨年の米大統領選に関して熱い議論を交わしました。こうした仲間と日々切磋琢磨できるのは大変刺激的です。
物理学部のカリキュラムは、講義とそれに伴うチュートリアルがメインで、実験物理学の学生はさらに毎週合計7時間の実験を行います。そして、最終学年に各々テーマを選び、それに一年もしくは半年かけて取り組み、論文を書きます。オックスフォードとケンブリッジに次ぐ名門大学だから、勉強は並大抵ではなく、学生は皆必死です。
勉強以外の時間には、時々ジムに通ったり、テニスをしたりします。もっとも、最近は悪天候と多忙なスケジュールでなかなかテニスができませんが。
この大学にはMay Dip という行事があります。これは、学年末試験合格を祈願して、5 月1 日の夜明けとともに、学生が海に入る、という行事です。私も毎年参加しますが、スコットランドの5 月の海はかなり寒いです。(笑)
幼少期に、親の仕事でウィーンに五年、シドニーに二年間滞在し、中学入学の際に日本に帰国しました。それまで、日本での生活に馴染みがなかったので、日本の学校の様々な不文律に疑問を抱き、中学・高校を通じて学校生活にあまり馴染めませんでした。
その後、国内の大学を受験しましたが、第一志望には不合格、遂には、大学に入るためだけの受験勉強に辟易し、軽い鬱になってしまいました。一時期、鉛筆が握れなくなったほどでした。
滑り止めの大学に合格し、親の意向で渋々入学しましたが、日本の大学生の無関心、無教養、大学の環境、勉強内容に、わずか三ヶ月で辟易しました。「これ以上日本で勉強を続けても無駄だ」と思い、奮起して海外留学を志しました。そして、様々な情報を集めている時にNIC を知りました。
当初親には反対されました。最初のNIC の説明会には単身で上京したほどです。しかし、説明会を聞き、直感的に「ここだ!」と確信しました。その後両親を説得して、NIC を受験し、2012 年9 月に入学しました。NIC での膨大な量の課題、不慣れな欧米式の学び方、授業での高い要求水準を一年間英語でこなしたことで、あらゆることに対する我慢強さと度胸が鍛えられました。
昨年、物理学部の合宿に参加した際、20分間のプレゼンをしました。合宿前の練習ではいつも失敗し、その度に新たな問題点が出てしまい、直前まで手直ししなければなりませんでした。しかし、不思議なことに、本番では失敗することなく最後まで話すことができました。NICでの厳しい勉強が役立っているな、と痛感しました。
NICでの一年間を一言で表せば、日本における「最も幸福な時代」。もしNIC に入っていなければ、今頃惨めな人間になっていたと思います。NIC に入って変わったことは、感情豊かになったことです。鬱屈とした中学・高校時代はいつも無愛想で、滅多に笑うことがありませんでしたが、NIC での素晴らしい友人との充実した学校生活を通じて、周りに積極的な態度を示せるようになりました。また、かつては大変な写真嫌いでしたが、今は抵抗がなくなりました。
私が心がけていることは、「初心に戻る」こと。なぜ物理を勉強するのか、何に興味があるのか、と自問自答することで、モチベーションを保つことができるのです。この五年間、自分の実力の低さを否応無く思い知らされることは幾度もありました。にもかかわらず、物理学への情熱を失ったことは一度もありませんでした。それは、先述の「原子物理学を勉強したい」という初心を忘れないからです。日々膨大かつ難解な課題をこなし、余暇にはクラブ活動などに参加するので、あらゆることに常に気を配らなければいけません。
そのために、常に物事を整理整頓し、やるべきことを明確に把握することが重要です。(具体的な方法として、私はごく些細なことでもメモに書き留めています。)逆に、これが習慣化すると、用事の多寡に関わらず、一個ずつスムーズに処理することができます。
卒業を来年に控えた現在、卒業後の進路について考える機会が増えています。日本では、理系学生の就職先の花道は、大学や研究所での研究職、あるいは第二時産業への就職ですが、欧州では現在、理系学生が第二次産業の代わりに、第三時産業へ進出する例が多数見られます。そうした環境から、情報アナリスト、シンクタンク、コンサルティング等、日本では全く考えなかった仕事にも今は興味があります。
一見、コンサルティングやシンクタンクと物理学とは無関係に思われます。しかし、第三次産業の分野では、多くの会社が、今話題のビッグデータや人工知能といった分野へ進出しています。将来は、物理学で養った情報処理能力や分析力を生かし、こうした新たな分野の開拓に関わりたいと思っています。